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第3話 ページ4

小学一年生の頃のことは、昔過ぎてほぼ思い出せなかったが、一つだけ記憶がよみがえってきた。



小学一年生になって初めての宿題は日記で、お題は「しょうらいのゆめ」だった。

普通は「けいさつかん」「ヒーロー」「せんせい」など、将来なりたい職業を書くのだが、僕は皆と違った。

「ぼくは、おとなになんかなりたくありません」と書いて提出したのだ。「ふざけないで下さい」と先生に怒鳴られて、その日の帰り道は泣きじゃくった。



__今の僕は何だ。周りの顔色ばかり伺って、優等生になろうとしている。

僕は変わった。「学校」という大人の評価で自分を決められる場所によって、真っ黒に染まってしまった。

そんな風に考えると僕は何だか目頭が熱くなってくる。


「A、そんなにこの写真が気になるのか?」


父の言葉で僕は現実に引き戻された。

泣きそうになっていることに気付かれたくなくて、父から目を逸らす。

窓の外に目をやると、太陽が照っていて世界がキラキラしているように見える。僕はその明るい外へ逃げ出したくなった。


母や父に涙なんて見られたら、「どうしたの?」「何か悩みがあるなら話せ」というように心配されるに違いない。


「僕、ちょっと出掛けてくるっ」


そう言うなり、僕は玄関に向かって小走りした。裸足だったので、父がよく履いている大きめのサンダルに足を入れる。


「昼ごはんはどうするの!」

「おい、A!」


後ろから母と父の声が追いかけてくるが、玄関の扉を閉めるとその声はぴたりと止んだ。


僕の家はマンションの七階。エレベーターを使った方が楽だけど、それを待つ時間さえも、もったいない気がした。だから僕は階段を駆け降りる。

タタタタタという軽快な音はサンダルのせいで出ないけど、僕の脳内では鳴っていた。



長い道のりだったが、僕はやっと最後の一段を降り終えた。普段から体力を鍛えているおかげで、はぁはぁと息切れはしない。

僕はマンションエントランスに着いたので、自動ドアをくぐり、重い扉を開けた。


空は今日の朝見た時と同じく快晴だ。僕はその綺麗な空を見ても何も感じない。

昔の僕はどうだっただろう。たくさんのことに興味を持っていて、何もかもが不思議に見えた……気がする。

悲しくてしょうがなかった。僕はいつの間に変わってしまったんだろう。


僕の涙を暖かい風が運んでいく。涙だけでなく僕のこの気持ちも飛んで行けば良いのに。

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アリス(プロフ) - 好きぃ…(^q^)というか話の内容が共感しか無い。僕は作り笑いと愛想笑いのプロだからね!(笑) (4月13日 20時) (レス) @page3 id: 36b57db8a9 (このIDを非表示/違反報告)
直♀(プロフ) - お話作るの上手過ぎない!?応援してるね! (4月13日 17時) (レス) @page3 id: cbcc3bbbe5 (このIDを非表示/違反報告)
あるかろいど有機(プロフ) - わぁぁ!どんどん裏人間さんの活動範囲が広がってて超感動してます…1話だけで分かる神小説感!応援してます! (4月6日 20時) (レス) @page2 id: 2f84a9ae4a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:裏人間 | 作成日時:2024年4月6日 18時

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