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化け物並みの天才な弟に比べて、俺の魔法の才能は完全にゼロだった。どれだけやっても初歩の魔法すら使えない。何度もやっては失敗を繰り返し、自分が惨めに思えてきた頃、国から弟に声がかかった。弟のその才能を見込んで、国で召し抱えたいと。元とはいえただの孤児にはとんでもない栄誉だ。
「兄さんも、一緒に行こう!」
無邪気な弟に手を引かれた。今思えば、あそこで手を振り払っておけば良かった。
国は一人くらい増えても構わなかったようで、むしろ一人余分に衣食住を与えるだけで弟という才能の塊を確保できるならプラスの方が大きいと、俺というお荷物の存在を許した。衣食住は提供されているが、かといって何もせず穀潰しでいるのも居心地が悪い。魔法が使えないのに弟にひっついているのも意味がない。ならばと王国騎士団に混じって剣を取ってみたが、生憎剣の才能も俺にはなかった。体を作る幼少期にロクに食事が取れなかったことが影響しているのか、俺の体はどうやっても筋肉がつかなかった。
『……アーミルに比べて、兄貴の方は駄目だな……』
『そもそも本当に兄弟なのか?アーミルにひっついて甘い汁を吸おうとしてるだけなんじゃ……』
異様に白い不健康な肌色と浮いた肋骨、内臓が一個二個はどこかに落としてきたような薄い腹、子供でも片手でへし折れそうな腕と脚、それから目の
『アーミルさん、すげえよなあ。憧れるわあ』
『じゃあ新人、兄貴の方は?w』
『えっ、アーミルさんってお兄さんいたの!?』
『嘘だろお前!まあでも、いてもいなくても変わらねーし、新人が知らなくても当然か〜!w』
剣も魔法もてんで駄目。手伝いなんてしようにも、俺がいなくとも事足りる。むしろプロや達人ばかりが集まるここでは俺は邪魔だ。なにもかもがどうしようもない。俺は、そのうち書に溺れるようになった。老人のもとで読み書きを教わっておいて本当に良かった。王宮の書庫の奥の奥で埃にまみれながら本をめくる。ただ何もせず、本から知識を得続ける。得た知識も特に活用はしない。
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あいすくりぃむとちょこれぃと(プロフ) - すにすな@さくらぁさん» またまたコメントありがとうです。兄がぽんこつならもちろん弟だってぽんこつです。間に合ったルートは(弟的には)ハピエンです。間に合わなかったルートも(どっちも壊れちゃったから)ハピエンです。 (4月23日 14時) (レス) id: b2ed5b6349 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな@さくらぁ(プロフ) - またしてもコメ失礼します🙇♂️弟視点に命が助かりすぎました。まさかの救済ルートか!?と思ったら案の定そんなものはなく…やっぱり可哀想な男はどう足掻いても可哀想な結末しかないんだというのを再認識できてとても良かったです。 (4月23日 7時) (レス) @page25 id: 6eb52e408b (このIDを非表示/違反報告)
あいすくりぃむとちょこれぃと(プロフ) - すにすなさん» コメント感謝です〜こいつは実は弟より全然頭良いです。頭が良いせいで頑張っても無駄と気づいてしまいました。それでも他にやりようはあったのに、『逃げ出す』という一番の悪手を選んでしまうぽんこつです。作者もお気に入りなのでもしかしたら続くかもしれない。 (4月8日 23時) (レス) id: b2ed5b6349 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな(プロフ) - お話の世界観や最後の後味の悪さに引き込まれ、一気に読んでしまいました。特に2作目のおにいちゃんのお話が大好きです。一生懸命頑張ったけど報われず、最期の瞬間は惨めであっけない男が好きなので、ゼストおにいちゃん最高でした。密かに更新楽しみにしています。 (4月8日 22時) (レス) @page21 id: b675f659fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あいすくりぃむとちょこれぃと | 作成日時:2024年4月6日 3時