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私はおじいさんに抱きかかえられながらも、兄に抱きついた。どちらかといえばしがみつくような格好で。「おとうとを助けてやって」というどこまでも優しい兄の言葉に、私はわんわん泣いた。おじいさんは「あんまり泣くと目が凍るぞ」と微笑んだ。兄は眠たげな顔で私の頭を撫でていた。
おじいさんの家に連れられて、私たちは名前をもらった。
兄は【ゼスト】、私は【アーミル】。
兄と弟以外の、自分たちを示す物をもらって、私達はようやく新しく生まれてこれた。そんな気がして、嬉しかった。
おじいさんの家にはたくさんの本があった。読み書きを教わってからは、私と兄は朝から晩まで本を読んだ。特に私は、物語が書かれた本が好きだった。未だ見ぬ遠い国を旅する冒険記や、世界を滅ぼさんと画策する魔王を討つため戦う勇者の物語など。その中で私が最も憧れたのは、勇者を支える魔法使いだった。
その物語で、勇者と魔法使いは兄弟だった。勇者の兄を支え助ける魔法使いの姿に、私は夢を見た。
強くて優しい兄と、そんな兄を一番側で支える弟。
それが、私の理想の兄弟だった。
たくさん助けられた。何度も守ってもらった。今度は僕が強くなって、兄さんを助けよう。兄さんの自慢の弟になろう。
だから私は魔法使いになることを選んだ。
それの何がダメだったのだろう。
一生懸命努力した。それもこれも、優しい兄さんに見合う弟になりたかったから。国で一番の魔法使い、と呼ばれるまで進み続けたのも、全部、全部。
忙しくてあまり会えなくても、頑張ればきっと兄さんは褒めてくれる。そう思っていた。
「どうしてお前は俺の弟なんだ」
それは、生まれて初めての兄からの拒絶だった。どうしてそんなことを言われたのかわからず、私は呆然と遠ざかっていく兄の背中を見つめていた。
なぜなのかわからないまま、私は兄の名を呼んだ。兄さんは振り返ってはくれなかった。
どうして私はあの時兄を追いかけなかったのだろう。
そのすぐ後、兄さんがいなくなった。
書き置きすらも残さず静かに消えた。まるで初めからいなかったみたいに。
兄が失踪した理由もわからないくせに、兄が消えたことが恐ろしくて仕方がなかった。傍にいてほしい、いなくならないでほしい、兄さんがいなくなったら、私は何のために___
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あいすくりぃむとちょこれぃと(プロフ) - すにすな@さくらぁさん» またまたコメントありがとうです。兄がぽんこつならもちろん弟だってぽんこつです。間に合ったルートは(弟的には)ハピエンです。間に合わなかったルートも(どっちも壊れちゃったから)ハピエンです。 (4月23日 14時) (レス) id: b2ed5b6349 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな@さくらぁ(プロフ) - またしてもコメ失礼します🙇♂️弟視点に命が助かりすぎました。まさかの救済ルートか!?と思ったら案の定そんなものはなく…やっぱり可哀想な男はどう足掻いても可哀想な結末しかないんだというのを再認識できてとても良かったです。 (4月23日 7時) (レス) @page25 id: 6eb52e408b (このIDを非表示/違反報告)
あいすくりぃむとちょこれぃと(プロフ) - すにすなさん» コメント感謝です〜こいつは実は弟より全然頭良いです。頭が良いせいで頑張っても無駄と気づいてしまいました。それでも他にやりようはあったのに、『逃げ出す』という一番の悪手を選んでしまうぽんこつです。作者もお気に入りなのでもしかしたら続くかもしれない。 (4月8日 23時) (レス) id: b2ed5b6349 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな(プロフ) - お話の世界観や最後の後味の悪さに引き込まれ、一気に読んでしまいました。特に2作目のおにいちゃんのお話が大好きです。一生懸命頑張ったけど報われず、最期の瞬間は惨めであっけない男が好きなので、ゼストおにいちゃん最高でした。密かに更新楽しみにしています。 (4月8日 22時) (レス) @page21 id: b675f659fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あいすくりぃむとちょこれぃと | 作成日時:2024年4月6日 3時