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「大人になればこれの美味さが分かるようになる」
と祖父はいつも豪快に笑っていた。
正直、法律上大人として認められる齢をいくつか越えた今でも、中華の美味さはいまひとつわかっていないが、それはさておき。
祖父はその件の中華料理屋に行くと、決まって必ず、最後に鯉の丸揚げを頼んだ。文字通り丸ごとの鯉が使われている料理なので、初めて見た時、幼いわたくしはその不気味さに泣いた。ぽかりと開いた鯉の口が悲鳴を上げているように見えたのだ。もちろん鯉はとっくに調理されてその命を失っているわけだし、そもそも魚が悲鳴をあげるわけもない。それでも、そのときは本当に怖かったのだ。祖父はそんなわたくしを見てゲラゲラと笑っていたけれど。
鯉の丸揚げは、皮はサクサクのパリパリ、身は淡白で、鱗はねっとりして美味い。そこにたっぷりかかった甘酢餡の旨味がくわわるとそれはもう絶品、らしい。聞いただけでも美味そうだと思うけれど、鯉に箸をのばそうとする度、頭の中で鯉が油の中で悲鳴を上げている想像をしてしまうので、結局当時のわたくしは一度も口にしなかった。
「鯉が可哀想だと思うかい?」
そう祖父が尋ねてきた。わたくしは頷いた。祖父はガハハと笑うと、
「それじゃあ豚も鳥も牛も、なぁんにも食えなくなっちまうなぁ」
と少し意地悪そうに笑った。
「でもなあ、知ってるか?可哀想は美味いんだ」
そう言って、それから祖父は語り始めた。
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あいすくりぃむとちょこれぃと(プロフ) - すにすな@さくらぁさん» またまたコメントありがとうです。兄がぽんこつならもちろん弟だってぽんこつです。間に合ったルートは(弟的には)ハピエンです。間に合わなかったルートも(どっちも壊れちゃったから)ハピエンです。 (4月23日 14時) (レス) id: b2ed5b6349 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな@さくらぁ(プロフ) - またしてもコメ失礼します🙇♂️弟視点に命が助かりすぎました。まさかの救済ルートか!?と思ったら案の定そんなものはなく…やっぱり可哀想な男はどう足掻いても可哀想な結末しかないんだというのを再認識できてとても良かったです。 (4月23日 7時) (レス) @page25 id: 6eb52e408b (このIDを非表示/違反報告)
あいすくりぃむとちょこれぃと(プロフ) - すにすなさん» コメント感謝です〜こいつは実は弟より全然頭良いです。頭が良いせいで頑張っても無駄と気づいてしまいました。それでも他にやりようはあったのに、『逃げ出す』という一番の悪手を選んでしまうぽんこつです。作者もお気に入りなのでもしかしたら続くかもしれない。 (4月8日 23時) (レス) id: b2ed5b6349 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな(プロフ) - お話の世界観や最後の後味の悪さに引き込まれ、一気に読んでしまいました。特に2作目のおにいちゃんのお話が大好きです。一生懸命頑張ったけど報われず、最期の瞬間は惨めであっけない男が好きなので、ゼストおにいちゃん最高でした。密かに更新楽しみにしています。 (4月8日 22時) (レス) @page21 id: b675f659fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あいすくりぃむとちょこれぃと | 作成日時:2024年4月6日 3時