＊ ページ14
.
紙袋を受け取って、そのままバイバイと手を振ればいいだけのはずなのに、私の腕は何故か重くて持ち上がらない。あれ、こんなにブラウニーって重かったっけ…
夕暮れを知らせるようにカラスの鳴き声が遠くで聴こえる。口を開いたのはきんときくんの方だった。
「あ、のさ…Aちゃん」
『は、はい』
「その、一応何が入ってるのか見ちゃって……それ、バレンタインのチョコ？」
見られてる！？
心臓がどくんと嫌な音を立てる。恥ずかしくなってますます彼の顔が見られない。1度こくんと頷いて、しかしずっと俯いたままの私に優しいきんときくんは言葉を続ける。
「嫌だったら答えなくてもいいけど、それさ、…もしかして誰かにあげる予定だった？」
また頷く。
でも、貴方です、なんて言う勇気は持ち合わせていない。……けど、でも、もう、こんな機会一生訪れないかもしれないから。
怖くて彼の顔は見れない。見えるのは私と彼のつま先と無機質な石畳、そして紙袋の中の箱。
私は思いきって紙袋を突き出した。
『これっ…！あげます！』
「え…、え？」
手が震える。待って、おねがい、もう少し、だから。
『いつも、私なんかと話してくれて、あ、ありがとう！…その、もうお話できないかも、だけど、その、私は、わたしは、』
きんときくんが幸せなら、私も幸せだから……
言葉が詰まる。声が震える。うまく言葉が出てこなくて、目尻からまた涙がこぼれそうになって、また声が震える悪循環。
…だけど、そっと紙袋の持ち手を私から受けとったきんときくんは、私の肩をぽんぽん、と叩いて言った。
「Aちゃん、こっち見て？」
私が声に導かれるようにゆっくりと顔をあげれば、そこには、少し頬を赤らめたきんときくんの笑顔があった。
『きんときくん…？』
「ねぇこれさ、俺、ちょっとだけ自惚れてもいい？」
『自惚れ…？』
私の問いかけには答えず、きんときくんは嬉しそうに笑う。
「なんでもないよ。大事に食べるね！」
『あ、え、うん……でも、後輩ちゃんが、』
「後輩…？ああ、あれ？Aちゃん、聞いてたの…？」
私の戸惑ったような言葉に、きんときくんは肩を竦める。
「俺が先走って勘違いしただけだから謝ったよ。でも、」
きんときくんは1度言葉を区切る。そして、心底大切そうに私の紙袋を抱きしめた。その視線にどきん、と心臓が跳ねる。
「もうちゃんと"ホンモノ"が貰えたから」
.
もう1つﾊﾞﾚﾝﾀｲﾝあがるかも
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 251人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：梅餅 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/12Saku111/
作成日時：2023年11月30日 16時
