短編集【d】【npl】 (ページ12)

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俺は今日のために卸したスーツを着て、結婚式場にいる。

Aの両親とも挨拶をして、同級生とも笑い合う。

テストの時、前の席から白い答案用紙を手渡してくれた時のように、

白いドレス姿で、あの日のように振り返り、Aは俺を見て、笑みを浮かべた。

式は進み、我慢がしきれなくなったのか、Aが漫画のように大粒の涙を流す。

それを見た俺も鼻の奥がツンとしたが、どうにか堪えた。

｢やっぱり苗字がかわるなら結婚式の日からだなー、節目って感じしない？｣

昔聞いたAの言葉が、頭の中に響いた。

自由で、言ったことは曲げなくて、真っ直ぐなAは、これも有言実行するのだろう。

今日からAは籍を入れて、苗字が変わる。

新しい苗字になると、俺たちの出席番号は離れるよな。

前後の席じゃなかったら、こんな仲良くはなれんかったんかな。

Aのことやから、話しかけてくれたかもしらんな。

苗字が変わる、それだけで

あの日の俺たちの席が遠く離れてしまった。

出席番号

あの日の俺ら、さようなら
君の綺麗な苗字も、さようなら
俺はテレビの明かりが灯る部屋で、
塩味のするバームクーヘンを咀嚼した。